銀杏


飛び込んでしばらく水中にいるのが好き。
ゴボゴボとした水の音しか聞こえない。
まるで母親の胎内にいるように体が包まれる。

水面に上がるとたくさんの声。
この声援は今一緒に泳いでいる人たちにも送られている。

頑張れ!頑張れ!頑張れ!

いつものように水を掻き、足で蹴る。

後少し。
後少しでターン。
ターンの後、隣のコースで泳ぐ選手とすれ違った。

さあ、最後のバタフライ。
疲れてきたけどまだスタミナは大丈夫。

尊。
私、頑張るからまたお祝いして?

ああ、あと25メートル。
10メートル。
タッチ!

ハア、ハア、ハア…

肩で息をしてタイムを確認した。

やった!自己ベスト更新だ!

尊を探した。
でもさっきのところにはいない。
お兄さんは?
目線が合うとにっこり笑って親指を立ててくれた。

お兄さんの隣に男の人が座ってる。
あれは…




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