銀杏
「え…っと、確か緑ヶ丘の子だったかな。」
そうそう。
「それ、去年の夏休み、練習試合見に来てた子?」
あ、行ったよ。
「うん。」
「その子、妹だって言ってなかった?」
妹じゃないんだけどなあ。
「そうなの?うーん、謎だね。」
へえ、謎かあ。
「大体、彼喋らないんだもん。『うん』とか『いや』しか言わないじゃん。」
いやいや、結構喋るよ。
「ホントだ。クスクス…」
ひそひそ話だけどすぐ側にいてみんな聞こえてた。
クールと言うより意地悪だよ。
心の中で彼女たちの質問に答えていた。
会場に着くとたくさんの人たちの熱気に包まれていて、圧倒された。
凄い!こんな大勢の人が来てるなんて。
前方にはカメラを構えてメモ帳を手にした人がいる。
もしかして…記者?
この大会ってそんなに大きな試合なんだ。
今日の尊の様子だと軽い気持ちで『行ってくるー』と出掛けるような感じだったのに。
突然、尊が手の届かない人に思えた。