銀杏


あ、わかった!
利き手を変えたんだ!
両手で握ってるからわからなかった。

中学の練習試合でたった一度持ち変えたラケット。

こんな大きな大会で左を使うとは思わなかった。
でもさっきは利き手で苦戦してたのに、左で勝てるの?

手すりに掴まったまま動けなかった。祈るような気持ちで見つめる。周りの観客もまだ一回戦なのに、白熱した試合に釘付けなのか静まりかえってる。
ポイントなんか見てなかった。
と言うより、テニスの点数なんてどうやってつくのかよくわかんない。
ただ尊が心配で尊だけを見ていた。

コートチェンジのために持つ大きな鞄。

あ……手…。

尊の手から何かが落ちた。

汗?

違う…血だ!

尊が血を流してる!

誰か!尊と同じ学校の人はいる?

辺りを見回してもわからない。

誰も気づかない?

為す術もなく試合が始まった。




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