銀杏


ボールなんか目で追ってられなかった。
尊が打ち返す度にグリップばかりに目がいく。

たぶん、手のひらからの出血だと思う。
痛い筈なのにそんな素振りは一切ない。
我慢強いのか鈍感なのか。
酷くならなければいいけど。

指を組んで祈るような格好のままその場から動けなかった。



試合が終わって中央に寄った時、握手ができなかった。
相手選手がびっくりしてるのが伺い知れた。

尊が引き上げて来るのを通路で待ち構えていた。

「尊!」

「よう!また叫んで……」

「手のひら見せて!」

何ともない左手を見せる。

「違う!右手。」

「……後でな。」

尊は控え室に入って行った。

次の試合は右手に包帯を巻いてた。
さっきの試合では苦戦を強いられたけど、今度は大丈夫?

やっぱり利き手を左にしてラケットを持ってる。

その日の試合はハラハラし通しだった。




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