銀杏


尊が帰るのを待ち構えて、玄関が開くや否や走り出た。

「ただい……」

「手は!?」

「……大丈夫。」

「嘘。」

「…どうでもいいだろ。中入らせて。」

「あ…ごめん。」

不機嫌な様子にそれ以上何も言えなかった。

結局、際どい結果で何とか勝ったけど、このまま決勝までいったとしても優勝は無理かもしれない。
それは尊自身がよく知っている。
きっとそれがわかっているから不機嫌なんだと思う。

寝る前に尊の部屋を訪れた。

「尊、入ってもいい?」

「……俺、超不機嫌だから来るな。」

「ちょっとだけだから…いいでしょ?」

「………。」

返事を待たずしてそっと入った。

扉に背を着けたまま話しかける。

「マメ…潰れたの?包帯巻こうか?」

無言で差し出された右手。
持ってきた救急箱から消毒液や絆創膏を取り出して、そっと尊の手のひらを見る。




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