銀杏


練習が終わって更衣室へと引き上げた。制服に着替えようと鞄の中を見た時だった。

ない。
制服がない。

何で?ちゃんと中に入れた筈なのに。

テニスコートを見るともう誰もいない。

尊も着替えに行っちゃったのか。
どうしよう。

9月の日中はまだまだ暑い。でも夕方になると少し風があって、濡れた体には少々ブルッとくる。

きっと尊は私が行くのを待ってる。でもこの格好じゃ…。

バスタオルに身をくるんでしゃがみ込んだ。

プールサイドは西日を浴びてオレンジ色に染まっている。グラウンドにも、テニスコートにも、もう誰もいない。

体が冷えてくしゃみが出た。

はっくしゅん!

その時、更衣室のドアを叩く音がした。

「咲!咲!?まだいるのか?」

「尊?」

ドアを開けると目の前に尊が立っていた。




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