銀杏


〈尊side〉

『こんなに真っ赤…』

咲の様子が変だ。
傷の部分は確かに赤いけど真っ赤という程ではない。
何を見てる?
血?
……もしかして事故のことを思い出して…?

虚ろな目をして、手を見てるようで見ていない。
咲の心に奥深く眠ったままの記憶。
俺の傷が呼び起こしたのか。
悲しい思いはさせたくないのに、思いも寄らないところで蘇る。

俺は咲を抱き締めることしかできない。

咲が不安を感じずに過ごすことはできないのか…。

俺がもっとしっかりとしなきゃいけない。
咲は何を望んでいるのだろう。
今の俺には何が一番いい方法なのかわからない。

『真っ赤だ』と言われれば『うん』と認めるのか……、『そんなことはない』と否定するのか。

いつになったら咲は楽になれるんだ?

「咲?」

「なあに?」

「傷があるの、何でわかった?」

「…ラケット…左で持ってた。……血が落ちたから。」



< 510 / 777 >

この作品をシェア

pagetop