銀杏
〈尊side〉
『こんなに真っ赤…』
咲の様子が変だ。
傷の部分は確かに赤いけど真っ赤という程ではない。
何を見てる?
血?
……もしかして事故のことを思い出して…?
虚ろな目をして、手を見てるようで見ていない。
咲の心に奥深く眠ったままの記憶。
俺の傷が呼び起こしたのか。
悲しい思いはさせたくないのに、思いも寄らないところで蘇る。
俺は咲を抱き締めることしかできない。
咲が不安を感じずに過ごすことはできないのか…。
俺がもっとしっかりとしなきゃいけない。
咲は何を望んでいるのだろう。
今の俺には何が一番いい方法なのかわからない。
『真っ赤だ』と言われれば『うん』と認めるのか……、『そんなことはない』と否定するのか。
いつになったら咲は楽になれるんだ?
「咲?」
「なあに?」
「傷があるの、何でわかった?」
「…ラケット…左で持ってた。……血が落ちたから。」