銀杏


「どうしたんだよ。何か…あった?」

まだ水着のままの姿を見て驚いたようだ。

「…制服が…。」

事情を話すと、「もう少し待ってろ。探して来てやるから。」そう言って更衣室を後にした。

おとなしく尊が戻るのを待つ。

静かな校庭を見渡していると、どこからか蜩(ひぐらし)の鳴く声が聞こえる。

スニーカーの土を踏む音が微かに耳に届いた。

「…咲。はあ…あった。ちょっと汚れてるかもだけど。」

尊の顔を見た途端、涙が出てきた。

きっとあちこち探して走り回ってきたのだろう。息が切れて、汗が額から頬に流れてる。

制服を受け取ると、ポロポロと涙が溢れた。

尊は頭をポンポンとすると、更衣室を出て行った。




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