銀杏
周りは木々が生い茂って麓の景色は何も見えない。
どこまで続くんだろう。
「…まだ?」
遠慮がちに訊くと「眠い?いいよ、寝ても。着いたら起こすから。」
「ううん、大丈夫。」
………。
そう言ってたのに。
ずっと車に乗ってるだけなのに、ざわざわとした木々のざわめきを聞きながらウトウトしていた。
適度な揺れが心地よく、ゆったりとした音楽も眠気を誘う。
博貴は咲の様子にクスッ…と笑みを溢す。
まだあどけなさの残る寝顔。
この純真無垢な姿のままでいて欲しいと願わずにはいられなかった。
「うわあ、高~い!いい眺め。」
到着して、車から降りると眼下一面に広がる麓の世界。
「夜だと夜景が綺麗なんだけどね。」
「じゃあ、今度は夜景を見せてね?」
「そうだな。」
うーんと両手を挙げて伸びをする。
ひんやりとした空気がおいしい。
森林浴もできて、日頃のせわしなさを忘れさせてくれる。