銀杏
「おばちゃん、お願い。もし、肉親じゃなかったらもうしない。最初で最後にする。だから…。」
奥さんに懇願する咲にはもう迷いは感じられなかった。
「咲ちゃんがそこまで言うなら…。それじゃ、お任せします。でも辛いなら辛いとちゃんと言ってよ?みんな咲ちゃんが大事で心配してるからね。」
「うん、わかった。」
話をしている間に決心が着いたのか、さっきの表情のような暗さはない。
挨拶を済ませ、門を出たところでちょうど尊くんと会った。
クラブから帰ったようだ。
「博貴さん…。咲、帰ってるんですか?」
「ああ、30分ぐらい前にね。話があって少しお邪魔してたんだ。」
「話?」
「ああ。…咲を頼むよ。彼女を支えてやってくれ。」
彼の肩にポンッと手を置いて、そのまま車に乗り込んだ。
バックミラー越しに立ち尽くす尊くんが見えた。