銀杏


尊の自転車に乗せてもらって背中に耳を付ける。

トクン、トクン、トクン…

いつもと同じ音がする。

何も言わずに自転車をこぐ尊。

何を思ってるの?
尊は検査をすることに何も言わないし、訊いてもこない。

一週間前、ドライブに連れて行ってもらってから急に話さなくなった。
ハグもないしキスもない。
怒ってる訳ではなさそうなんだけど…。

「ねえ、銀杏並木にいること…何でわかったの?」

「……咲のこと…何だって知ってる。」

「…え?」

「幼い頃から一緒なんだ。わかるよ。咲だって俺のこと知ってるだろ?」

…知ってるけど、最近の尊はわからない。

不安で堪らないのに…
尊に抱き締められたら安心するのに…

夕食後はあっさり部屋に入ってしまうし、寝る前にも私の部屋には来ない。

尊の背中に額を付けて「……ハグ…してよ…。」と呟く。

聞こえなかったのか、尊は「着いた。降りろ。」と言っただけだった。




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