銀杏


頭がガンガンする。

洗面所でゴクリと水を飲む。

落ち着け、尊。
そうだ、深呼吸。

スゥ――ハァ――

鏡に映る自分に問いかける。

父ちゃんと母ちゃんは一体何を話してる?
咲のことであるのは間違いない。

『引き取りたい』

その言葉が頭の中で呼応する。

咲は…どっか行くのか?

……。

咲が施設へ行った日のことを覚えてる。
怖くて母ちゃんの服を掴んでた。
咲がいなくなって凄く寂しかった。
ぽっかり開いた穴に落ちてしまって這い上がれないような気分で、保育室の片隅で小さくなっていた。

咲がいないのに、いつもと変わらない。

何もなかったかのように時が流れる。

みんな普通に笑ってる。

まるで自分だけがそこに取り残され、異空間に投げ出されたようだった。

みんなが普通に過ごすことに腹を立て、しばらく荒れてた。




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