銀杏


“じゃあ何?言ってみて”

“………”

“ほら早く!”

“………”

“やっぱりそうじゃない”

“違うんだって!
……驚いてるだけ。
そう。
驚いてるだけなの。
今まで北条さんのお兄さんとして接してきたから、突然父親宣言されて驚いたの”

“…嘘つき”

“嘘じゃないもん!”

“あんたは恨んでる。
お兄さんがしっかりお母さんを掴まえないから、自分が辛い思いをしたんだと。
お兄さんが手離したからお母さんがあんなことになったと思ってるでしょう?”

“……やめて…”

“お母さんが冷たかったんでしょ?
一緒に寝たかったんでしょ?
歌も歌って欲しかった。
遊んで欲しかった。
温かい背中。
ふんわりとしたいい匂い。
優しい声。
いつも隣にいてくれた。
お母さん、
返して欲しいでしょ?”

“……”

“…全く……。素直に認めたら?いい子を演じ過ぎ。もっとはっきりすれば?あんたは元々そんな子じゃないでしょ。昔はもっと泣き虫で、もっと声を出して笑ってた”




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