銀杏


唇が離れて、久しぶりのキスに照れくさくて視線を逸らす。

尊は咲の頭を撫でながら「もう体は大丈夫だよな?」と訊いた。

「うん。大丈夫。ありがと。」

「風呂場でぐったりしててびっくりしたんだぞ。母ちゃんも慌てちゃってさ。浴槽から引き上げるの大変……あ。やべっ!」

尊は慌てて口を押さえた。

今…何て言った?
浴槽から…引き上げる?

じゃあ…私は産まれたままの姿を晒した訳?

誰が引き上げた……の…?

固まってしまった咲の横でしどろもどろになりながら、誤魔化そうと必死になる尊。

でも咲の頭の中は醜態を晒してしまったことでいっぱいだった。

「…尊。」

「う…えと……はい。」

「誰が引き上げたの?」

「え…その…」

「誰よ?」

「か…母ちゃん。」

「…一人じゃないでしょ。おじちゃん?」

「い…いや……その」




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