銀杏


お母さんはずっとにこにこして、咲の話を聞いてくれてた。

懐かしいな。

数少ないお母さんの思い出。本当はいっぱいあったんだと思う。

でも今はもう数えるほどしか思い出せない。

お母さん…。

咲は尊の家族と一緒に暮らせて幸せだよ。寂しくないよ。

でも…時々泣いちゃうんだ。

お母さんに会いたくて。
声が聞きたくて。

尊の家族の前では泣けなくて、こうして一人になって泣くの。

咲はまだまだ強くなれません。お母さんが恋しくて、暗がりの中をさ迷う小さな女の子です。



見上げた銀杏の葉がぼやける。

瞬きをすれば零れ落ちそうな涙を我慢した。




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