銀杏
「やあ、久しぶり。元気だった?ちょっと待って。今、玄関開けるよ。」
姿を現したのは北条さんだった。
「連絡しないでごめんね。やっと落ち着いたと思ったら、今度は荷物の整理でね。これからは本格的に向こうでの生活が始まるから、準備も大変だよ。」
北条さんの変わりない態度。
静か過ぎる家の中。
北条さん以外、誰もいないみたい。
「おばさんは?」
「留守。」
「いつ帰るの?」
「さあね。そんなことより決心はついた?」
「決心?」
「ああ。北海道へ連れて行くって言ったろ?」
「それはまだ先の話…」
「いいや。一年なんてあっと言う間だよ。今から準備を進めても早すぎることはない。」
「ちょっと待って。そのことで話があるの。」
「……」
「…お兄さんから…聞いてないですか?」
「…何の話?」
「…DNA鑑定の結果。それで認知を…」
「俺には関係ないね。」
「え?」
「俺には関係ない…て言ったの。聞こえた?」