銀杏


「母は突然出ていったよ。『男なんて!』て言いながらね。」

「……」

「それに、この家を売ることにしたんだ。
父の仕事が行き詰まって借金が膨らんでね。
車もなかったろ。
先月売ったんだ。
母は出ていったし俺も北海道へ行く。
家を売れば少しは借金の返済に当てられる。

だから父の行き先も兄貴もどこにいったのか知らない。
全ては兄貴が雪乃さんとのことを話したからこうなったんだ。
知らなければ、うわべだけでも家族として生活できたのに。」

そんなの家族じゃないよ。気持ちをそれぞれ誤魔化して生活するなんて。

いつか綻びは大きくなって取り返しがつかなくなる。
そうなったらお互いが許せなくなって、責任を押し付けあって…。

もう元には戻れない。




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