銀杏


〈貴士side〉

兄貴の部屋…

雪乃さんと過ごした場所。

咲ちゃんと会っていた場所。

ぐるりと部屋を見渡した。
棚には幾つかボトルが並んでる。

何だこれ。ワインか…?

コポコポコポ…

グラスに注ぎ、口にする。

ぶっ…ただのブドウジュースじゃん。
こんなの飲んでたのか?子どもみたいだな。

大きな窓から見える公園。
そこから聞こえる子どもの声。

ゆったりとした椅子に深く腰かけた。

春の風がカーテンを揺らす。

彼女の後ろ姿を思い出していた。

目に焼きついて離れない。

驚いて…
絶望したような顔をして…
俺を睨んだ。

泣き出すと思っていた。
瞳にはいっぱい涙が溜まって、今にも零れ落ちそうだった。
でも必死になって我慢していたんだろう。

咲ちゃん…

君を傷つけたくはなかったんだ。

でも…そうでもしないと君を諦めることができなくて、嫌われてしまえばいいと思っていた。

実際やってみて、こんなに辛いとは思わなかったよ。




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