銀杏


〈尊side〉

家に帰ると母ちゃんが神妙な面持ちで呼んだ。

「咲ちゃんのことなんだけど…」

最近、様子がおかしいのは知ってた。
でも今日はもっとおかしいらしい。

「様子を見て来て。」

頼まれて部屋まで行った。

ノックをして呼んでも返事がない。
入ることを告げ扉を開けた。

瞼は腫れて、視線が定まらず、宙を見ているような感じでじっとしたまま動かない。

「咲!!」

両肩を掴んで少し揺さぶるとゆっくり尊の顔を見た。

視線が合うとじわじわ瞳に涙が溜まっていく。

「……た…け……る…。おに…さ……」

「咲?」

いきなりがばっと抱きついて泣き出した。

「うあああ―――っ!!」

俺はただ驚くばかりで、咲を抱き締めるしかなかった。

それからしばらく泣き続け、落ち着いてはまた泣くの繰り返しで、理由を訊くことはできなかった。




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