銀杏


翌日、咲は俺と母ちゃんの前でポツリポツリと話始めた。

博貴さんがいなくなったこと。
北条の家には誰もいないこと。
弟にはもう会うことはないこと。

………。

せっかく約束までしてたのに、役所へ行くことは叶わなかった。

ここまで咲を傷つけられて腹がたつ!

俺たち家族が大切にしてきた咲を…

意図も簡単にこんな風にするなんて!

だけど誰もいない家に乗り込んで怒りをぶつけることもできない。

イライラして唇を噛んだ。

その様子に気づいた咲がそっと膝に手を置いた。

「もう…いっぱい泣いたから大丈夫。心配かけてごめんなさい。…尊、後で部屋に来て。」

リビングを出る後ろ姿を目で追った。

「尊、咲ちゃんは全部話してくれたんだろうか。何か隠してるように思うんだけど。」

「うん、俺もそう思う。
こうだったとかあったことだけを話して、なぜそうなったのか理由は言ってない。
後で訊いてみるよ。」

「うん、そうして。」




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