銀杏
「咲、赤ちゃんて生まれる時、手を握ってるだろ?何でだと思う?」
「……」
潤んだ瞳で俺を見る。
「…幸せを握ってるんだ。」
咲の曇った表情が変わった。
「生まれる時、みんな幸せを持ってるんだ。だから人は不幸の中にいるんじゃなくて、幸せの中にいるからこそ、悲しいことや辛いことを乗り越えられるんだ。
咲は最初から不幸だったのか?」
「……」
「確かに博貴さんは養子で愛情も少なかったかもしれない。でも弟が生まれるまでは幸せだったんじゃないのか?
弟が生まれてからは咲の母ちゃんの愛情は独り占めしてたんだろ?
咲という娘がいて幸せなんじゃないのか?
北条家がバラバラになったのは博貴さんのせいでも、咲のせいでもない。色んな要因が重なっただけだ。」
咲の瞳に新たな涙が浮かぶ。
「じゃあ、お兄さんは何のためにいなくなったの?」