銀杏
咲の悲しみはどれ程のものなんだろう。
両親が揃った俺には理解できないのかもしれない。
でも想像することはできる。
ずっと傍で咲を見てきた。
楽しいことも辛いことも分かち合ってきた。
咲ばかり深く傷つくようなことになるのはどうしてなんだろう。
咲の悲しみを俺に与えてくれればいいのに。
そうすればこんなに泣くこともなくなるのに。
人は一生のうちに苦労するのはみな同じ。
誰かが言ってた。
若いうちに苦労するか、年老いて苦労するか。
どちらも同じだけ苦労する。
本当にみな同じか?
少なくとも咲にとっては当てはまらない。
咲はいつになったら笑って過ごせるようになるんだろう。
俺…博貴さんのこと、恨みそうだよ。
弟の約束を守るのと、咲との約束を守るのと、どっちが大事だよ?
もちろん……咲だろ?
博貴さんのたった一人の娘だよ。
咲の母ちゃんはもういないんだから、博貴さんにとってこの世で一番大切なのは……咲だろ?
頼むから、これ以上咲を泣かせないで。
泣き顔を見るのは辛いんだ。
いつになったら俺は咲を笑わせることができるのだろう。