銀杏


大学生になって二年が過ぎた。

咲は全国大会で一位、二位を争えるほどにまで成長した。

世界を相手にした試合にも出れるようになった。

でも尊と会えるのは、時々流れるテレビのニュースの中。

尊に逢いたくても逢えない寂しさを、水泳に打ち込むことで気を紛らわせている。

たまに送られてくるメールは、

『元気か?』とか『疲れた~』とか『寝る』の繰り返し。

尊の様子は全くわからない。
無精にも程があるでしょう?
そんなに忙しい?
私は尊の何?
もう好きじゃない?

………

いつも悪い方へ考えてしまう。
それほど不安なんだよ。

声が聞きたい。
…でも聞けば逢いたくなる。
逢えば、触れたくなる。
触れれば…離れられなくなる。

せめて尊の気持ちが知りたい。

気がつけば、手にしたケータイの画面は尊の電話番号。
通話ボタンを押せば繋がる。

ボタンに指を合わせて押すか押さないか…。

じっと画面とにらめっこ。

今、何してるだろう。
かけても迷惑じゃない?
寝ちゃってるかな。

はあ――…。

ため息ばかり。

ケータイを握りしめたまま、うつ伏せになる。

………。

あれ?
何か聞こえる。




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