銀杏


本当に続かない会話。でも決して居心地の悪いものではなくて、穏やかな時が静かに流れる。

「……。」

「……。」

リビングの時計がカチコチと音を刻む。

「あー、暇!」

ドサッと尊はソファーに寝転び、天井を見つめた。

しばらくすると何かを思い出したように、突然起き上がって、「一時間したら戻って来る。」と出て行った。

一人になっちゃった。

更に静かで物音一つしない。

あの時のことがまざまざと思い出される。

買い忘れたごま油。

財布だけを持って出たお母さん。

帰らないお母さん。

…尊。早く帰って来て。一人は嫌だよ。

咲の心臓は壊れそう。

さっきからもの凄く大きな音で胸を打つ。

汗が出る。

ジワリジワリと暑くもないのに服を濡らす。

息が…苦しい。助けて。

そのまま床にうずくまって、ひたすら尊を呼んだ。




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