銀杏


咲には黙ってたけど…俺…会ったんだ。

博貴さんに。

だから余計に連絡できなかった。つい喋ってしまいそうで。



試合のために咲の住んでる町とは反対方向へ、電車で二時間かけて行った場所だった。

駅前にある大学病院を通り会場へ向かっていると、そこの正面玄関で白衣に身を包んだ人と、黒っぽいスーツにネクタイを締めた人が話していた。
歩道からは少し距離があったために顔は分からない。
何気なく通り過ぎ、俺の後からやって来た車が信号で停まった。

さっきの人だ。

横顔が…どこかで…?

あっ…!

まだ信号は赤だ。

慌てて車の前方から大きく手を振った。

それに気づいた運転手は信号を越えたところで車を停め、窓を開けた。



「やあ、久し…」

「博貴さん!」

俺の剣幕に博貴さんは口を挟むことができずにいたみたいだ。




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