銀杏
「咲は元気にしているんだね。安心した。」
「…本当に元気だと思いますか?貴方がいなくなってから咲は……」
「俺にどうしろと?約束をほっぽり出して裏切るような男だよ。今更何ができる?あの子もきっと呆れて愛想を尽かしてるよ。」
自分を責め、それを嘲るようにふっと笑った。
「…咲はずっと待ってる。水泳を頑張れば貴方に逢えると信じて。
記録を出すのは自分のためでもあるけど…でも一番の理由は、博貴さん、貴方のためだ。」
「俺の?どういう意味だ?」
「あの日、咲がどんなに心待ちにしていたか分かりますか?血を分けた家族がいたと喜んでいたのに…幸せな気分は一気に谷底へ落とされた。
“人は不幸の中にいて、時々やってくる幸福に喜びを感じる”
そんなことを言ったんだ。それを言わせたのはあんただ!
咲に辛い思いをさせたくないと思っていたのに…
笑わせるのは俺でありたいと願ったのに…
咲はあんたがいないと笑わない。
笑えないんだ!」