銀杏
咲はたった一人の肉親でしょう。
弟との関係も大事だろうけど、いずれ好きな人もできるだろうし、そのうち咲のことは思い出になる。
でも…でも、咲のことは縁を切るなんてことはできない。
……親子なんだから。」
「……」
「貴方がいなくなった後、咲がどんな様子だったか想像したことありますか?」
「…そりゃあ、最初は悲しむだろうとは思っていたよ。でもあの子には君も、君の両親もいる。支えてくれる人がいる。だから…」
「だから大丈夫だとでも?
博貴さんの代わりは俺たちはできませんよ。
ただ慰めるだけしか…。
咲は三日間、泣き続けましたよ。
5歳で母親を亡くして、父親のあんたにも見捨てられた。」
「見捨てたつもりは…」
「咲にとっては同じだ。
…そんな悲しみを娘に負わせてどうするんです?
咲も貴方ももっと幸せにならなきゃ。
もし、咲が生まれた時から一緒に暮らしてたら、たくさんの幸せを分かち合えたでしょ?
その埋め合わせをしたくはないですか?」