銀杏


気がつくと、いつ帰って来たのか尊がいて、タオルで汗を拭いてくれてた。

尊…無事に帰って来たんだ。よかった…。

尊のズボンの裾をギュッと掴んだ。

「た…ける。」

「ん?もう、大丈夫か?」

「…尊。」

「何?」

「尊。」

「だから、何だよ。」

「よかった。」

「は?」

「ちゃんと…帰って来てくれて。」

「何言ってんだよ。当たり前…。」

はっとしたように尊は口をつぐんだ。

そして静かにこう付け加えた。

「ごめんな、咲。俺、大事なこと忘れてた。もう一人にしないから。ごめん。」

そっと咲の手を握り、頭を撫でてくれた。

温かい尊の手。

尊に触れられたところから安心感が広がっていく。

「うん。約束…。」




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