銀杏
電車が滑り込み、尊の姿が見えないところへわざと移動した。
動き出すとやっぱり気になって、乗り込んだ扉とは反対の扉に近づく。
まだじっと見ている。
きっと咲の姿は尊からはシルエットになっている筈で、表情までは分からないだろう。
動き出した電車から尊が遠ざかる。それでも尊は見送るように動かない。
あんなこと言っといて…。さっさと帰ればいいじゃない。
本当に詰めが甘いんだから。
最後まで冷たくしたら?
もう!
こんな時にまで優しさなんか見せないでよ。
……バカ。
姿が見えなくなってもそこから動くことができなくて、頬を伝う涙に唇を噛んだ。