銀杏


「……」

尊は急に何も言わずに咲を抱き締めた。

「…尊?」

戸惑う咲と違って、尊は悩んでいた。

あの時の話をするべきか否か。

なぜ咲に連絡をしないのか。
もどかしい。

「私ね…お兄さんは近くにいるような気がするの。お母さんがしたように、私が気づかないところで見てるんじゃないかって。こうあって欲しいと思う欲求かもしれないけど。」

「……きっとそうだよ。俺もそう思う。
それ、渡せるといいな。」

「うん。」

咲を抱く腕の力が増したように感じた。

「咲。」

「何?」

「俺な……いや、あーその…」

歯切れの悪い尊はあまり見たことがない。珍しい。

「友美ちゃん、元気にしてる?」

「友美?何、藪から棒に。元気だよ。この間連絡きた。子どもが欲しいみたいだけど、先輩が忙しくてお預けだって。
…ずっと一緒にいれていいよね。」

「……」

「ふふっ…。私も尊と一緒にいるのに何でそんなこと思うんだか。バカだね。」




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