銀杏


そして今日。母ちゃんに探して来てと頼まれた。迷わず銀杏並木へと自転車を走らせる。

銀杏の下で一人佇み、色づいた葉を眺めてた。

母ちゃんに『急いで』と言われたことを思い出し、「咲ーっ」と呼んだ。

振り向いた君はやっぱり泣いていて、俺の心を締め付けた。

何がそんなに悲しいの?

父ちゃんや母ちゃんや俺は、咲を幸せにできていないの?

俺の背中に頭をコツンと預ける咲が悲しかった。

母ちゃんは俺たちを残し、じいちゃんの世話をしに家を出た。

咲と二人きりになったのは初めてだ。

静かな家の中。いかに母ちゃんの存在が大きいか、改めて思い知らされた。

言葉少なに俺に返事をする咲の目はまだ赤い。

もしかして、まだ泣きたいのか…。泣きたきゃ泣けよ。少しの間、一人にしてやるから。




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