銀杏


その夜、尊はテニスの試合の予定を話してくれた。

後一ヶ月で海外に行くことと、集中力を高めるために、咲に構うことができなくなるということだった。

試合前の一ヶ月と、試合中の二週間。
つまり、明日から咲は尊と同じ空間にいても、いないのと同じになる。
今までもそのスタイルは同じなんだけど、同じ部屋にいるのに無視に近い状態というのは寂しい。

ベッドに入っても何となく目が冴えてじっと天井ばかり見つめていた。

尊…もう寝たかな。

「…尊?」

「…う…ん。何?」

寝かかったのを起こしてしまったみたい。

「ごめん。何でもない。」

「…手。……貸せ。」

「ん。」


手を差し出すとグイッと引っ張られて体が密着する。

抱き締められて尊の胸が目の前にある。

尊…?

「何もしてやれなくてごめん。せめて指輪ぐらい欲しいだろ?今日、ジュエリーの店素通りしたけど見たかったんだろ?
でも大事な物だからじっくり選びたいと思って入らなかった。
落ち着いたら行こうな。」

気づいてたんだ…。




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