銀杏


幼い頃からずっと夢見てた。

お母さんに『咲の夢は?』と訊かれて、『尊くんは王子様で咲はお姫様』なんて答えてた。

そんなことはすっかり忘れてたのに、宝箱を開けた時に思い出した。
あの花冠は尊が作ってくれて、色画用紙の冠は私が作った。
不器用な私ができた精一杯だった。

あの時は何も考えず、尊と遊ぶことしかなかった日々。
今はお互い違う道に進んで、その軌跡は今までもこれから先も交わることがない。

本当にこれでよかった?
後悔なんかしていない?
自分に問いかけても答えなんか出てこない。

一人で眠りにつくベッドは広すぎて、寂しさが倍増する。
何のための入籍?

………

でも最初から分かってた。
尊が海外に拠点を移すこともあり得ると。
もしそうなったら私はどうなる?
それこそ入籍の意味はない。

試合が近いというのにこんな気持ち…
一人でいた方が気が楽かも。

尊…しばらく考えさせて。




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