銀杏


〈尊side〉

後から咲がついて来てると思っていた。

扉が閉じてバスは動き出す。
ほっとして「何とか間に合ったな。」と窓の外を見たら、咲があらぬ方向へ走って行く姿が見えた。

「あんのバカ!何やってんだ!?」

慌てて運転手に降ろしてくれと頼んだが、次の停留所で降りてと言われ、小さくなっていく咲を目で追った。

停留所へ着くまでに何度も電話したのに全く出ない。

くそっ…!
何してんだ!?
早く着けよ!

イライラしてギリッと奥歯を噛んだ。

停留所に着いたバスから降りると来た道を引き返す。
走って、走って、立ち止まることを忘れたようにひたすら走った。

こんな時、鍛えていてよかったと思う。息が切れて止まることはなかった。

途中、横断歩道の手前で人だかりができていた。

さっきは人だかりなんてなかった。何かあったのか?
そんなことより咲を探さなきゃ。

再度、ケータイを取り出した。

けれどそれは手から滑り落ちた。




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