銀杏
〈博貴side〉
『咲の様子がおかしい』
病院から連絡をもらって、仕事を終えると慌てて駆けつけた。
病室に入る前にざっと看護師から説明を受けた。
自分が何をしようとしたのか分からなくなったこと、名前が『一文字』だと言い張ること、とにかく不安で神経が昂っていることなど。
部屋に入ると座って薄暗くなった外の景色を眺めていた。
「咲?」
なるべく優しく声をかけた。
振り返った咲の顔は強ばっていて、涙を浮かべているようにさえ見えた。
ぐしゃぐしゃと頭を撫でた。
「何て顔してんだ。まるでお化けでも見たみたいだぞ?」
笑顔で話しかける。
「今、看護師から話を聞いたよ。お前は一文字咲だよ。そこのプレートには『天宮』てなってるけど雪乃の娘なんだから。何も間違っちゃいない。咲は正しい。他に気になることはあるか?」