銀杏
また別の日には、後ろからぎゅううっと抱きついたり、背中で背中を押したり。
まるで小さな子どもが父親に甘えるようなことをする。
他の人が見たらびっくりするだろう。
でもそれが咲の心を満たしていく行為だと説明を受けていた。
食事の準備を一緒にして、かなりの不器用さに気づいた。
買い物に出ても、手当たり次第に籠に食材を入れていく。
「返してこい」と言うこともしばしばだ。
きっと水泳ばかりやってきたのだろうということは、容易に想像できた。
料理の腕もかなりのもので、ド下手。
これには参った。
俺も人のことは言えないが、咲よりはマシだ。
掃除は何とかやっている。
咲と暮らし始めて新しい発見が幾つもあり、笑うことが増えた。
こんなに娘が可愛いものだとは思わなかった。
普通なら、父親は嫌われてたり、鬱陶しがられたりなんてことをよく耳にする。
でも咲はベッタリくっついて離れないこともよくある。
こういう態度が可愛さを増すのだろうか。
娘を嫁に出すのを反対する父親の気持ちが分かる気がした。