銀杏
「まだ分かんないよ。
そういえばこの夏、尊試合に出てなかったよね。何かあったの?テレビで回復がどうの…て言ってたけど。」
「ああ、あれか。
咲が家に帰ってきたら話すよ。
…まだ帰らない?」
「……」
「いいよ、ゆっくりで。急かしてる訳じゃない。
そうだ。お前、名前言ってみろよ。」
「は?何で。」
「いいから、フルネーム。」
「一文字咲。」
「…やっぱりな。」
「何がやっぱりなの?」
「……お互いまだ時間が必要だな。」
「何のこと?」
「…こっちのこと。今から行くとこあるんだ。
博貴さん、俺、用事あるんで失礼します。」
「ああ、悪かったね。気をつけて。」
尊くんを見送った後、咲は首を捻っている。
「どうした?」
「うん。…前にどこかで名前呼ばれて…すっごく照れ臭かったんだ。どこだったっけ?」