銀杏


「…引退しようと思ってるんだ。」

意外な言葉にすぐには信じられなかった。
言葉を失っていると「落ち着いて聞けよ」と真剣な面持ちで話し出した。

「咲が事故にあった日、俺も事故にあったんだ。
咲とはぐれて連絡を取ろうとして、人とぶつかりケータイを落とした。それを拾おうとしてバイクと接触。弾みで歩道の柵に目をぶつけたんだ。それで網膜剥離を起こして…今でも右目がぼやけてる。」

そんな…私のせい?
また見えるようになる?
目が見えなくなったらどうしたらいいの?
じゃあ、もうテニスはできないの?
私は自分のことばっかりで…尊に取り返しのつかないことをしてしまった。
尊の人生を…台無しにしたんだ…。

じわじわと涙が浮かぶのを見た尊は怖い顔をした。

「おい。まさか俺の人生をぶち壊したなんて思ってないだろうな。」

「思ってるよ!だって私が勝手な…」

パシン!

初めて平手打ちをされた。




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