銀杏


それからしばらくして、妊娠していることがわかった。

嬉しさや戸惑いを感じていて、咲より先に経験している友美ちゃんに、色々と相談しているようだった。

だんだん大きくなっていくお腹に愛しさが増していく。

年が明けて冬の寒さが緩みだした頃、友美ちゃんは女の子を出産した。

その頃には咲も大きなお腹をしていて、友美ちゃんの子どもを見ながら「もうすぐ私もお母さんになるんだね。」と呟いた。


そして5月。友美ちゃんより2ヶ月遅れて、新緑の眩しい季節に咲は女の子を産んだ。

愛しさはお腹にいる時と比べモノにならない。



しかし幸せは束の間、咲は事故の後遺症で妊娠中の身体の負担と出産のリスクを負って、我が子を抱くことも叶わずこの世を去った。

医者には子どもは諦めるように言われていたらしいが、それを誰にも言わなかった。
どうしても欲しいと強い意思表示をして医者を困らせたらしい。

『水泳で鍛えた身体だから大丈夫』

咲の口癖になっていた。

最期まで咲は自分で出した答えを相談するようなことはなかった。

きっと反対されると思ったのだろう。




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