スイーツラブ~お菓子みたいな甘い恋~[短編集]
「下の名前」

「え?」


皐月の呟きに、雪菜は隣を歩く彼を見上げた。


「新入生の名前覚えてなくてさ。ごめん。山田……何さん?」


首の後ろを掻きながら雪菜を見下ろす皐月は、少し照れたような笑みを浮かべた。


「……雪菜です。山田雪菜」


一瞬、間を置いて。

雪菜は笑顔を咲かせる。


「ゆきな、か。……君にぴったりだな」

「先輩は皐月さんですよね? 五月生まれなんですか?」


口の中でぼそぼそと呟く言葉に気づかず、雪菜は笑顔のまま続けた。


「ん? あぁ……まんまだよな」

「素敵ですよ? 弥生ちゃんは三月生まれですか?」

「……詳しいな」

「一般常識ですよー」


駅に向かう道すがら。

お互いのことを、ひとつずつ知っていく……。


そんな緩やかなスピードが、皐月には心地良かった。


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