四竜帝の大陸【青の大陸編】

21

我はりこの手当てをカイユにまかせ、窓から外へ出た。
離宮に植えられた多種の花々の香りが混ざり、いっそう甘く香っている。
だが我の鼻孔も口内もりこの血の匂いが残り、脳髄まで侵食するかのようだった。

酒に溺れた愚かな人間のように……視界が揺れ、鼓動が早まる。
甘いのは花の香りではなく、血の匂い。
我が溺れるのは酒ではなく、りこ。

我の頬に重なった柔らかなそれを喰いちぎったら、どんなに美味いのであろうか?

あたたかな血液を啜り、飲み干し。
黒い目玉を噛み砕き。
 
「駄目だ」

喰らったら、駄目だ。

りこが死んでしまう。
再生能力が無いのだから。

「駄目だ」

甘い、甘いりこの身体。
砂糖菓子のように甘く、脆い肉体。
 
「駄目だ」

ああ、そうか。
逃げたのだな、我は。
 
初めて感じた‘食欲’から。

「おい! じじい! おいって!」

我は下賎な獣のように、りこを貪り咀嚼し飲み込み……。

「この色ボケじじい! ……ヴェル?」
「……<青>か。なんだ?」

<青>は我を見て、首を傾げた。
全く、微塵も‘かわゆく’無い。

りこはこれのどこが‘かわゆく’見えるのか?
我には1万年経ったとて、理解できそうにないのだが。

「ヴェル。お、お、お前、ど……どうしたんだ? よ、よ、よだ、よっだ!」

青い爪を持った小さな指が、我を指す。

「よっ、よだれが垂れてるぞー!」

よだれ?
よだれとは【涎】のことか?

「ぎゃー! よだ、よだ、よだれが出とる! じじい! とうとう頭がいかれたのか? ボケたのか? あの【ヴェルヴァイド】が……涎垂らしとるー!」
 

愛しい人。
貴女を、貴女の全てを。
 
貪り喰って、1つになりたい。



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