四竜帝の大陸【青の大陸編】
【繭】に使用する生態保持用溶液は、確かに血液に似ている。
まして、りこは何の説明もないまま【繭】に入れられていたのだからな。
血液と間違えるのも無理はない。

りこの意識を戻す前に溶液を洗い流して処理しておかねば、このようにりこが不快な思いをしてしまうのだな。
ふむ。
我としたことが。

我も溶液をまともにかぶったしな。 
りこの眼には、我が血まみれに見えたのだな?

「りこ、落ち着け。これは血ではないのだ。溶液というものでな。可哀相に驚かせてしまったのだな。あぁ、りこは我がすぐ綺麗にしてやるので安心するがいい」

耳元で囁くように言ってやると、りこの身体がぴくりとはねた。

「ぁんっ!? ハ、ハクちゃん……血じゃないの? 怪我しちゃったんじゃないの?」

眼に涙を浮かべ震える声で我を気遣ってくれるりこに、我の心がじわりと熱を持つ。
人間よりも冷たいはずのこの身体がまるでりこと同じように暖かくなれたと、錯覚してしまいそうだ。
まだ少々意識が混濁しているりこは溶液という言葉を理解することはなく、我が流した血ではないということだけに安心したようだった。

「なら、いい……。ハクちゃんが無事なら、いいの」

薬が抜けきっていないせいかしっかりと動かすことのできぬ身体を我に摺り寄せ、笑みを浮かべながら言った。

「なんかね、まだ眠い……の。もう少し、いいかなぁ……寝てて?」

りこの眼は眠気に耐えられないようで、再び閉じられてしまった。
我の身体の上で胎児のように手足を丸めて……。

「好きなだけ寝るがいい。我の側でなら、いくらでも」

さて。
顔同様に、りこの全身を舐めて綺麗にしたいところだが。
したいが……。
 
「洒落にならん事態に陥りそうなので、やめておくか」

そうは言ったものの。
りこの溶液の濡れた背を、意に反して我の指先が這っていく。

「……触るぐらい、良いか? よい具合に濡れておるので、傷つけることはな……む?」

背骨に沿って流した指は、目的の場所に辿り着く前に。

「ヴェルヴァイド様。意識の無い女性においたするようないけない指は、切っておきますか?」
「切断してから訊くな」

刀を手にしたカイユによって、強制的にりこの身体から我の指が分離されていた。
 
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