四竜帝の大陸【青の大陸編】
【繭】から無理やり出されたりこは、ずっとこの調子だった。
睡眠状態が混じったような、不安定な意識。
支店4階の賓客用特別室に移されたりこは我の腕の中で、1日の大半を過ごしていた。
抱きしめると壊してしまいそうなので、我の腕はりこの身体に軽く添えられた状態。
りこはカイユの用意した身体を締め付けない作りをした前合わせの部屋着姿で、長椅子に横になった我の上でまどろんでいた。
ふと目を覚ましたかと思うと、寝言のようなたどたどしい口調で空腹を訴えながら我の手をとり……指を齧り始めた。
我としては指などいくら喰われようと、全く構わないのだが。
それに。
常より体温の高い、濡れたそこに銜えられるのは。
りこの咥内に、体内へと迎え入れられるのは。
まるで、指先で交わっているかのようで……。
「もしヴェルヴァイド様の肉を食べたりしたら、トリィ様が正気に返ったときにお嘆きになります! 絶対、駄目です」
がじがじの感触を楽しんでいた我の指を、りこの口から抜きながらカイユが言った。
「だいたい、貴方様のせいです。トリィ様がこんな状態になってしまわれたのは。明日の昼までには回復されるはずですが……。おかわいそうなトリィ様。身体機能回復治療のために2日も絶食なんて。空腹のあまり、こんなものなど口にされて御労しい」
こんなもの。
我の指のことか?
まぁ、確かに硬くて不味そうなので異論は無い。
我はりこの齧っていた指に目線を落として、あることに気づいた。
これは……おもしろい!
「カイユ、見ろ。齧られた痕が残っているぞ?」
指に付着したりこの唾液を舐め、味わいながら言った我の言葉にカイユが激しく動揺した。
「そんなっ馬鹿なっ」
我の指に残る痕を確認したカイユは絶句した。
「我の身に傷痕など見たのは初めてだ。我の再生能力は桁外れだからな。りこの可愛らしい歯形がしっかりと残っている……再生能力が利いていないようだ」
つまり。
「りこは我を殺せる」
りこが我の咽喉を食いちぎり、心の臓を噛み砕いてくれたなら。
「我は死ぬことが出来るのだ」
あぁ、りこ。
りこはこの我に、死を与えることができるのか!
なんと素晴らしい!
我の至上の存在。
我の神。
我の生も死も。
すべてはりこの意のままに。
なんと甘美で幸せなことだろう!
「カイユ……りこは“かれー”が食べたいそうだ。食事がとれるようになったら”かれー”を出してやれ」
りこ。
異界から落ちてきた我の女神、我の支配者。
りこの望みが我の望み。
「かれー、ですか?」
「うむ、かれーだ」
取りあえずは“かれー”なのだ。
で……“かれー”ってなんなのだ?
寝息をたてているりこに聞くわけにもいかず、我とカイユは顔を見合わせた。
かれー。
飽き飽きするほど長く存在してきたが、初めて聞く単語だった。
睡眠状態が混じったような、不安定な意識。
支店4階の賓客用特別室に移されたりこは我の腕の中で、1日の大半を過ごしていた。
抱きしめると壊してしまいそうなので、我の腕はりこの身体に軽く添えられた状態。
りこはカイユの用意した身体を締め付けない作りをした前合わせの部屋着姿で、長椅子に横になった我の上でまどろんでいた。
ふと目を覚ましたかと思うと、寝言のようなたどたどしい口調で空腹を訴えながら我の手をとり……指を齧り始めた。
我としては指などいくら喰われようと、全く構わないのだが。
それに。
常より体温の高い、濡れたそこに銜えられるのは。
りこの咥内に、体内へと迎え入れられるのは。
まるで、指先で交わっているかのようで……。
「もしヴェルヴァイド様の肉を食べたりしたら、トリィ様が正気に返ったときにお嘆きになります! 絶対、駄目です」
がじがじの感触を楽しんでいた我の指を、りこの口から抜きながらカイユが言った。
「だいたい、貴方様のせいです。トリィ様がこんな状態になってしまわれたのは。明日の昼までには回復されるはずですが……。おかわいそうなトリィ様。身体機能回復治療のために2日も絶食なんて。空腹のあまり、こんなものなど口にされて御労しい」
こんなもの。
我の指のことか?
まぁ、確かに硬くて不味そうなので異論は無い。
我はりこの齧っていた指に目線を落として、あることに気づいた。
これは……おもしろい!
「カイユ、見ろ。齧られた痕が残っているぞ?」
指に付着したりこの唾液を舐め、味わいながら言った我の言葉にカイユが激しく動揺した。
「そんなっ馬鹿なっ」
我の指に残る痕を確認したカイユは絶句した。
「我の身に傷痕など見たのは初めてだ。我の再生能力は桁外れだからな。りこの可愛らしい歯形がしっかりと残っている……再生能力が利いていないようだ」
つまり。
「りこは我を殺せる」
りこが我の咽喉を食いちぎり、心の臓を噛み砕いてくれたなら。
「我は死ぬことが出来るのだ」
あぁ、りこ。
りこはこの我に、死を与えることができるのか!
なんと素晴らしい!
我の至上の存在。
我の神。
我の生も死も。
すべてはりこの意のままに。
なんと甘美で幸せなことだろう!
「カイユ……りこは“かれー”が食べたいそうだ。食事がとれるようになったら”かれー”を出してやれ」
りこ。
異界から落ちてきた我の女神、我の支配者。
りこの望みが我の望み。
「かれー、ですか?」
「うむ、かれーだ」
取りあえずは“かれー”なのだ。
で……“かれー”ってなんなのだ?
寝息をたてているりこに聞くわけにもいかず、我とカイユは顔を見合わせた。
かれー。
飽き飽きするほど長く存在してきたが、初めて聞く単語だった。