四竜帝の大陸【青の大陸編】
「りこにはスプーンを用いる食物を希望する」

ダルフェさんとカイユさんが顔を見合わせ、困惑した表情を浮かべた。
お子様三人は凍りついたまま動かない。

「スプーンが無くても給餌はできますよ。菓子を指で摘んで彼女にお与えになれば良いんです」

遅れてすみませんでしたとニコニコしながら空いていた席に腰を下ろした支店長さんは、ほっそりとした長い指でクッキーを1つ挟み……。

「ラーズ君。あ~ん」

固まっていたラーズ君の口を強引にぱかっと開けて、クッキーを入れた。

「ね?」

上品に微笑むナイスミドルなおじ様に、悪魔の尻尾が見えた気がした。

「りこ。あ~ん」

白い指が、クッキーを私の唇にむぎゅっと押し付けた。
皆の視線が私に集中した。
ひぃい~っ!
お子様達の前でですか?
昨日の昼・晩ご飯……そして今朝の朝食と‘あ~ん’され続けてきた私ですがっ。
ハクちゃんのきらきらお目目に、負けてきた私ですがっ!
支店の人達に私を「見せたくないが、りこの望みなら耐える」と、うるうるの瞳で言われて思わず自分から進んで‘あ~ん’をしちゃった私ですが。
無理。
駄目。
嫌。
こんな可愛い子達の前で……い・やぁああ~!
私にだって、26の大人としてのプライドが!

「それはい、いや……むぎゅがっ?!」

唇に押し付けられていたクッキーが、口に不法侵入した。
最悪なことに……クッキーだけじゃなく、指まで入ってきてるぅぅうう~!
押し込められたクッキーと、二本の指。
恥ずかしいどころじゃない。
そんなかわいい事態じゃないよ!
く、苦しい!

「ぐ、がっ、ごほごほっつ!」

クッキーが気管に入りそうになり、盛大にむせた。
さっさと抜いてくれない指のせいで変なむせかたになり、呼吸ができない。
私は死に物狂いでハクちゃんの手を掴み、引き抜いた。

「うっつ……げぇっ」

吐き出されたクッキーが、床にぽとんと落ちる。
咽喉を押さえて咳き込み涙を流す私にカイユさんが駆け寄り、背中をさすってくれた。
ひゅーひゅーと変な息と咳が止まらない。
なんなのよ、これ。
新手の嫌がらせか拷問!?

「わかりました! 加減が……だからまだっ、もごっ!?」

悶絶する私の姿に、支店長さんが何か言いかけた。
カイユさんのおかげでかなり楽になった私が顔をあげると、支店長さんの口をダルフェさんが塞いでいた。

「世界平和の為に黙れ! このお節介オヤジがぁああ!!」
 
世界平和? 
まずい!

ハクちゃんだ!

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