四竜帝の大陸【青の大陸編】
「い……い、や」

ハクちゃん。
ハク。

悪寒が身体を走り回る。
思いっきり手で押すと、支店長さんはすんなりと腕を離した。
両手で口元を抑え、言葉を失う私に彼は言う。

「貴女はとても弱い生き物なんです。常に守られていなければ。簡単に殺すことも犯すこともできる」

私、キスしたこと無かったの。
 
「貴女はあの御方の全てを受け入れるしかないんですよ。貴女自身と、貴女に関わって<監視者>の怒りを買い消される者達を出さない為に」
 
私。
26だけど‘大人のお付き合い’はしたことが無かったから。

「バイロイト! 貴様、狂ったか! トリィ様に……!」

カイユさんがダルフェさんに羽交い絞めにされている。

「離せ……殺す! 私の大事なトリィ様になんてことを! 四肢を引き裂いてやる!」
「待て、ハニー! ここに居たらやばい。おい! ちび共、逃げ……っ!?」

ハクちゃん。
初キスはハクちゃんと。

ハクちゃんと、したかったのに。

「りこ。泣くな、りこ」

ハクちゃん。

「りこ」

来てくれた。
恐ろしい程、綺麗な顔が下から私の顔を覗くようにして言った。

「りこの心が我を呼んだからだ。竜珠が‘心’を我に送ってくるほど悲しかったのだな?」

床に両膝を付いたハクちゃんは、熱く蕩けるような金の眼で私を見ていた。
熱に熔ける黄金のような……。

「ハ、ハクちゃん! ハクちゃん……わ、私っ」

私はハクちゃんの首に、両腕で抱きついた。

「誰に泣かされた……我以外の雄がりこに触れたな。この匂い。あれか」

え?
匂い?

「連帯責任という便利な言葉を知っているか? 幼竜達よ」

初めて、ハクちゃんが子供達に喋りかけた。
冷たい声だった。

「支店ごと全て潰そう。建物も、愚かな雄も……お前達もな」

私の身体に慎重に触れ、抱き上げたハクちゃんは……微笑んだ。
 
「都市……いや、メリルーシェごと潰すか。今の我はとても気分が悪いので。全て消してしまいたいほどだ」

その笑顔を間近で見た私は、凍りついた。

こんな『微笑み』があるの!?
身体の芯が一気に冷えて、ぞくっとした。

「りこから他の雄の匂いがする。……あぁ、怒りのあまり世界をめちゃくちゃにしそうだぞ」
 
こんな微笑み。
貴方にさせたくなかった。


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