四竜帝の大陸【青の大陸編】
階下の事務所から駆け付けたカイユの叫びが、血臭を切り裂いた。
「トリィ様、トリィ! なんてこと……私の娘がっ!」
娘、か。
やっぱり、そうだったのか。
人間が嫌いのカイユが姫さんに執着するのは、胎の子と重ねているからか。
「ハニー、そんなに力を入れて触れたら出血が増しちまう」
シーツで包んだ姫さんに半狂乱で縋るカイユを押さえ込み、支店長に指示を出す。
「人間の医者だ! 女医だ、急げ!」
バイロイトは飛び出して行き、俺は【繭】に使う溶液を満たした浴槽に姫さんをシーツごとゆっくりと沈めた。
この溶液には生命維持機能成分が含まれている。
俺が応急手当をするよりも確実に姫さんの身体を……。
「ハニー? 駄目だカイユ!……アリーリア!」
俺の腰から剣を奪ったカイユが、寝室へ向かおうと駆け出した。
<母親>として、娘の復讐を……。
駄目だ!
旦那に殺されちまう……俺のカイユがっ、愛しいアリーリアが!
俺は旦那の元に走ろうとした腕を取り、首に手を当て意識を落とした。
倒れこんだカイユを居間のソファーに寝かせ、寝室に居る旦那の様子を確認した。
部屋の隅にしゃがみこんだ白い塊に、ガウンをかけてやる。
「旦那、姫さんは死んじゃいませんよ、まだね。かなり壊れちまいましたが」
こうなる可能性が高かったから。
旦那は姫さんに手を出さなかった。
今まで我慢できてたのに、なんだって……。
「求婚したのだ、人間のように。結婚してくれと」
おい。
言ってなかったのか!?
我のりことか、連呼してたのに!?
「待てなくなった。誰かに盗られたらと」
支店長。
あんたの策は、こっちにまで過剰に効いちまってたぞ。
やっぱり、やりすぎたなぁ。
「結婚してくれと言ったら、りこが[はい]と。それから……止められなかった」
旦那。
最悪だぜ、そりゃ。
普通の人間なんだぞ、姫さんは!
気づいたら呼吸停止状態で。
殺しちまった。
そう思ったのか。
それで……喰おうとしたのか。
まだ完全に死んでなかったことすら判断できないほど、動揺したんだろうが。
「姫さんは……抵抗しなかったんですね」
ハニーが言っていた。
姫さんは、旦那の肌に傷をつけることが出来ると。
なのに。
白皙の美貌にも、ガウンを肩にかけた時に見えた肌にも。
爪のひっかき傷ひとつ無い。
あぁ。
怖かったろうに。
痛かったろうに。
辛かったろうに。
えらかったな、姫さん。
すごいよ、姫さん。
本当に……凄い女だよ。
「りこは我を……許さないだろうな」
こんな馬鹿な男に、もったいないぐらいの良い女だよ。
「さぁ? どうですかねぇ」
姫さんに‘守られた’ことすら気づかないような愚かな男には……。
「ハク……ハクちゃん。どこ?」
旦那が弾かれたように立ち上がる。
今の声。
姫さんっ!?
そんな馬鹿なっ!!
「トリィ様、トリィ! なんてこと……私の娘がっ!」
娘、か。
やっぱり、そうだったのか。
人間が嫌いのカイユが姫さんに執着するのは、胎の子と重ねているからか。
「ハニー、そんなに力を入れて触れたら出血が増しちまう」
シーツで包んだ姫さんに半狂乱で縋るカイユを押さえ込み、支店長に指示を出す。
「人間の医者だ! 女医だ、急げ!」
バイロイトは飛び出して行き、俺は【繭】に使う溶液を満たした浴槽に姫さんをシーツごとゆっくりと沈めた。
この溶液には生命維持機能成分が含まれている。
俺が応急手当をするよりも確実に姫さんの身体を……。
「ハニー? 駄目だカイユ!……アリーリア!」
俺の腰から剣を奪ったカイユが、寝室へ向かおうと駆け出した。
<母親>として、娘の復讐を……。
駄目だ!
旦那に殺されちまう……俺のカイユがっ、愛しいアリーリアが!
俺は旦那の元に走ろうとした腕を取り、首に手を当て意識を落とした。
倒れこんだカイユを居間のソファーに寝かせ、寝室に居る旦那の様子を確認した。
部屋の隅にしゃがみこんだ白い塊に、ガウンをかけてやる。
「旦那、姫さんは死んじゃいませんよ、まだね。かなり壊れちまいましたが」
こうなる可能性が高かったから。
旦那は姫さんに手を出さなかった。
今まで我慢できてたのに、なんだって……。
「求婚したのだ、人間のように。結婚してくれと」
おい。
言ってなかったのか!?
我のりことか、連呼してたのに!?
「待てなくなった。誰かに盗られたらと」
支店長。
あんたの策は、こっちにまで過剰に効いちまってたぞ。
やっぱり、やりすぎたなぁ。
「結婚してくれと言ったら、りこが[はい]と。それから……止められなかった」
旦那。
最悪だぜ、そりゃ。
普通の人間なんだぞ、姫さんは!
気づいたら呼吸停止状態で。
殺しちまった。
そう思ったのか。
それで……喰おうとしたのか。
まだ完全に死んでなかったことすら判断できないほど、動揺したんだろうが。
「姫さんは……抵抗しなかったんですね」
ハニーが言っていた。
姫さんは、旦那の肌に傷をつけることが出来ると。
なのに。
白皙の美貌にも、ガウンを肩にかけた時に見えた肌にも。
爪のひっかき傷ひとつ無い。
あぁ。
怖かったろうに。
痛かったろうに。
辛かったろうに。
えらかったな、姫さん。
すごいよ、姫さん。
本当に……凄い女だよ。
「りこは我を……許さないだろうな」
こんな馬鹿な男に、もったいないぐらいの良い女だよ。
「さぁ? どうですかねぇ」
姫さんに‘守られた’ことすら気づかないような愚かな男には……。
「ハク……ハクちゃん。どこ?」
旦那が弾かれたように立ち上がる。
今の声。
姫さんっ!?
そんな馬鹿なっ!!