四竜帝の大陸【青の大陸編】
「魔女よ。我にお前は不要だ」
 
サーテメルンは青の竜帝の大陸の一番西に位置する小さな国だ。
呪術が盛んな古い国であり、王ではなく巫女が統治する。
サーテメルンに異界の生物が落ちてきた。
術によるものではなく、『世界の境目』から落ちたのだ。
そのようなことは極稀だが、千年に一度ほどはある。

我がその地を訪れると<魔女>がいた。
巫女は<魔女>だった。
<魔女>は世界に、一人のみ。

同時に複数存在することはない。
<魔女>が死ぬと他の女に【記憶】が移行し、その者が魔女となる。
<魔女>とはこの世界の、記録媒体。
前の<魔女>が死ぬと、それまで普通に暮らしてきた女が突然に魔女になる。
<魔女>になろうが、平凡に生きて死ぬ者も多い。
だが、中には【記憶】を駆使し、栄華を求める者もいた。

この巫女が<魔女>になったのはごく最近のことのようだった。
<魔女>に懇願され、我はこの魔女の用意した竜宮に暫し滞在した。
我が<魔女>の願いをきいたのは。
 
暇だったからだ。
 
シュノンセルよ。
我は暇なのだろう?
世界の秩序を管理するというのは、暇なのだな。
お前が我に教えてくれた。
他にも何か……教えようとしていたようだったが。

<魔女>はやがて、我を愛していると言い始めた。
意味が分からん。
何故、この我を愛せるのだ?
つがいでもないお前が。

お前だけではない。
我にまとわりつく女は、大抵の者がそう言う。
我を愛していると。
熱病に侵されたように口にする。

我はお前達の愛などいらない。
愛など、知らない。

「なぜ、私を抱いてくださらない! 侍女達には望みのままにお与えになるのに……巫女王たる私のどこが下賤な女に劣ると言うのです!」

我に触れた侍女達は、<魔女>に消された。
それでも次々に女が寄ってくるのは、我と交わると不老長寿になるとされたからだろう。
呪術が盛んなこの国では古い迷信がまだ、庶民の間でも生きていた。
<魔女>がどんなに喚こうと。
<魔女>とは閨を共にしなかった。
あれは記録の媒体。
そう思うと女として認識できないのだから仕方が無い。
男を相手にするより、無理だ。


異界の玩具らしきものを商人から手に入れたから帝都に来い。
<青>がそう言っていると、使者として来た雄竜は言った。

「旦那~。そろそろ帰ってきて陛下と遊んでやって下さいよぉ。なんだかんだ言って、あのお子様は旦那に懐いてますからねぇ」

運良く生きていた“赤い髪”は<青>の元でつがいを得、<青の竜騎士>となっていた。

「<青>の城でラパンの花は咲いたか?」
「えぇ、満開ですよ」

ラパンは食用の実がなるのだが、我は食べたことは無い。
食物を摂取する必要がないからな。
ただ。
花は気に入っている。
 
「ならば、我は帝都に行く」

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