四竜帝の大陸【青の大陸編】
なぜ、私を……。

「りこ。りこ!」

ハクちゃんが私の顔に手を伸ばした。
でも小さな手は触れる前に握られ、降ろされた。

「どうしたの?」

今、気がついた。
私は泣いていた。

この世界に来てから、泣いてばっかり。
もしかしてハクちゃんは涙を手で拭いてくれようとしたのかな?

「すまぬ。我が泣かしたのだな、きっと。……拭いてやりたいのだが、できない」
「なんで?」

ハクちゃん両手・両足を丸めてた。
それ、よくやってるよね。

「……我の手は竜の手だから。硬くて鱗があり、爪が鋭い。りこを傷つけてしまう。我はりこを傷つけたくない。触れたいが……怖い」

意気揚々と物騒な事を言いまくったハクちゃんは、身を縮めるようにしてつぶやいた。

ああ、だめだ。

もう完敗!

この子はすごいよ。
うん。
敵わない。
こんなに想われたこと、無いから。
こんなに想ってくれる人は、きっともう現れない。

ごめんなさい、お母さん・お父さん。
安岡さん、許してなんて言いません。

軽蔑してください。

「ハクちゃんの手、可愛くて好きだよ」

私から手を伸ばす。
硬い鱗。
4本の指。
真珠の爪は確かに少し尖ってる。

「私は平気だけど。ハクちゃんが怖いなら……だんだん、慣らしていこうね。練習したら自信がつくよ」

ハクちゃんの手を私の頬にそっと添えた。
握ったままの小さな竜の手に、力が入ったのが分かる。
緊張しなくたっていいんだよ。
26にもなると、面の皮も厚いんだから。

「……柔らかいな」

まだ洗顔すらしてない顔だけどね。ちょっと汚かったかもよ?

「りこは汚れてなんか無い。綺麗だ」
「……ありがとう、ハクちゃん」

駆け落ちする人の気持ち……ちょっとだけ、分かった。




この時、ハクちゃんは自分自身についてけっこう重要なことを口にしたんだけど、私は理解してなかった。

正しくは……聞いちゃいなかった。
聞き逃していたことがけっこう大切で後々、大問題になってしまった。

昔からよく、注意されたのよね。
人の話をよく聞きなさいって。
< 20 / 807 >

この作品をシェア

pagetop