四竜帝の大陸【青の大陸編】
これって、裏切りだ。
ハクちゃんに対しての。
 
嫌な女。
私って、こんなに高慢だったんだ。
あぁ、自己嫌悪。
最低。
 
素直で無垢で。
強く揺ぎ無い貴方の愛に比べて。

私の愛って。
打算的で貪欲で。
薄っぺらくて不安定で。

こんな簡単に、貴方を裏切る。
 
この世界に来てから。
嫌な私が増えていく。

自分が思ってた以上に、醜い心の人間だったことが。
けっこう。
かなり、ショックで。
泣けてくる。

雨で涙は分からない。
叫んだって雷が消してくれる。

『ーーーーーーー!』

思わず口から吐き出された言葉は。
この状況では自分の耳にさえ、聞こえない。
 
貴方には。
聞かれたくない。

貴方の世界に来てから。
自分が嫌いになっていくなんて。
貴方には、知られたくないの。



泣いて叫んで。
かなり、すっきりした。
26にもなると、切り替えも早くなる。
いつまでもうじうじしてたって無駄だって、身に染みているから。
 
「さ、寒っ! あは、びしょ濡れだぁ。駕籠に……ハクちゃんの側に、帰らなきゃ」

ハクちゃんの側に。
私の居場所は、そこ。
そこしかない。

そうだ。
大好きなお風呂に入って。
さぶちゃんの歌を熱唱して。

少しへこたれたちゃった心を、元気にしよう。
自己憐憫に浸るのはやめよう。
可憐で儚いヒロインなんて、ごめんだ……と、いうか無理です。
柄じゃないし。
高貴で気高いお姫様にも、なれないもの。

「心のちょっと汚い、強欲で腹黒な26歳?」

異世界トリップ物語のヒロインとしては、失格っぽいけれど。
しょうがない。
これが私なんだから。

ごめんね、ハクちゃん。
こんな女が妻で。
でも。
もう、返品不可ですよ?



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