四竜帝の大陸【青の大陸編】
品の良いノック音が響き、カイユさんが扉を開けて現れた。

「お待たせいたしました……あら?」

まるでお盆を持つように、左の手のひらに大きな木箱を軽々とのせていた。

「カイユ、お帰りなさい。あ、ハクちゃん達はお庭で話を……わっ、すご〜い」

床に置かれた木箱の中にはガラスのポットや瓶が沢山入っていて、色・大きさ・形も様々だった。

「ハクちゃん、喜びます! ありがとうカイユ!」
 
私は窓に視線を移し、ハクちゃん達の様子を見た。
ここからだと後姿で……ん?
2人でじゃれて遊んでるのかな?
青い竜の上に白い竜が乗って……プロレスごっこしているの?
プロレスごっこがお仕置きなのかな? 
うん、なんかほのぼのしてて可愛い。

「ハクちゃ~ん! カイユがいっぱい持ってきてくれたよ、入れ物。遊びは終わりにして、こっちに帰ってきて~」

私は窓を開け、ハクちゃんを呼んだ。
竜のハクちゃんは念話が使えるから、大声を出す必要は無いんだけど。
ちょっと距離があったから。
つい、ね。

ハクちゃんはすぐに振り向き、ふわふわと飛んできた。
竜帝さんは芝生の上に、ひっくり返ったままだった。
その姿に私はちょっと心配になった。
プロレスごっこだって、怪我することあるだろうし。

「ねえ、竜帝さん……動かないよ? お仕置き、やりすぎたんじゃないの?」

ハクちゃんは金の眼をくるりと回して、言った。

「りこはランズゲルグをどう思う?」

ランズゲルグ?
誰?

「あそこに転がってる馬鹿の通り名だ。で、どう思うのだ?」

なんだろう、突然。

「竜帝さん? どう思うかって言われても。うーん、まあ、ちょっとお子様っぽいけど嫌いじゃないよ? 口は悪いけど、私を気遣ってくれてるの分かるの。これから仲良くしていきたいって思うよ?」

私の言葉を聞いたハクちゃんは、軽く頷いた。

「ふむ、‘これから’か……分かった。カイユ! <青>を回収して溶液に入れろ。濃度を限界まで上げて放り込んでおけ」

え?
私は後ろを振り返り、カイユさんを見た。

「カ、カイユ? 真っ青だよ、顔! どうしたの、具合悪いの?!」

血の気の引いた真っ青な顔をしたカイユさんは、がたがたと震えていた。
見開いた水色も眼は、一点を凝視していた。

外?
庭を見てる……竜帝さんを見てる。
なんで、どういうこと!?

「急げ。もたんぞ」

ハクちゃんの言葉に、カイユさんは動いた。
外へ飛び出し、竜帝さんを抱えて。
そのまま足早に庭の奥に消えた。

一度も振り返らなかった。
私と……ハクちゃんを見なかった。
カイユさん、どうしたの?

「ハクちゃん……まさか、竜帝さんに怪我させちゃったの?」

木箱の中を覗き込んでいたハクちゃんは。

「少々仕置きしただけだ」

怪我について、否定をしなかった。



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